人は、何も持たずに生まれる。
それから食べ、眠り、働き、世界と関わりながら命をつないでいく。
いろいろなものを持つようになるけれど、いつか必ず、そのすべてを置いて生まれる前の世界に還る。
これは人間だけの話ではない。
犬も、猫も、鳥も、虫も、植物も生命はみな同じ。
このことを頭で知るだけではなく、自分もその中のひとつなのだと納得できると、生きることは少しだけ軽くなる。
すべての生命は、同じ流れの中にいる
人間は、自分たちを少し特別な存在として考えやすい。
毎日生命の生死を目の当たりにしていても、
自分だけは長く生きたい。
他の生命から奪っていても、自分だけは失いたくない。
自分だけは努力したら報われるはず。
できれば、自分だけは大丈夫であってほしい。
そう思うこと自体は自然なことだと思う。
けれど、世界は人間だけを特別には扱わない。
生まれたものは変わり、老い、いつか命を終え生まれる前の世界に還る。
それは、人間でも動物でも植物でも変わらない。
世界は願いを知らず、ただ理に従う。
人間も、その理の外にはいない。
それを悲しいことだと考える必要もない。
ただ、世界に生まれ生まれる前の世界に還る。
生も死も、世界の理。
ゼロから始まっている
生まれたとき、何も所有していなかった。
お金もない。
家もない。
肩書きもない。
評価もない。
持ち物もない。
そこをゼロとするなら、今持っているものはすべて、あとから加わったものになる。
今日食べるものがある。
眠る場所がある。
着るものがある。
誰かとのつながりがある。
少し使えるお金がある。
ゼロから見れば、すでにたくさんある。
だから、足りないものを数える前に、ときどき最初の場所まで戻ってみる。
そして、そのゼロよりも多い命を繋ぐ最低限の地点をニュートラルと確認する。
すると、
今日を生きるだけなら、もう足りている。
そう思えることがある。
持っているものは、ずっと自分のものではない
持っているものを大切にすることと、握りしめることは少し違う。
家も、お金も、仕事も、身体も、永遠に持ち続けることはできない。
世界の中で自分の近くにあるだけにすぎない。
それなら、あるうちは使えばいい。
食べ物は食べる。
お金は必要なことに使う。
身体は今日を生きるために使う。
余裕があれば、周りの生命にも少し使う。
最後まで所有し続けようとしなくてもいい。
もともと何も持っていなかったのだから。
人間だけが特別だと思わなくていい
「どうして自分にこんなことが起きたのだろう」
苦しいとき、そう思うことがある。
でも、世界で起きることの多くは、生命の願いとは関係なく起きる。
病気になることもある。
別れもある。
失うこともある。
命が終わることもある。
そこに、自分だけが選ばれたという意味があるとは限らない。
自分も、世界の中に生きる生命のひとつ。
そう考えると、少しだけ力が抜ける。
世界に見放されたわけでもない。
罰を受けているわけでもない。
ただ、自分も世界の理の中にある。
頭で知ることと、納得すること
人はいずれ生まれる前の世界へ還る。
何も持っていけない。
そんなことは、誰でも知っている。
でも、知っていることと、納得していることは違う。
納得できていないから、失うことを必要以上に怖がったり、先の安心をどこまでも求めたりする。
もし、
自分もゼロから生まれ、いずれ生まれる前の世界に還る。
という当たり前の事実が少しずつ自分の中に落ちてくれば、生きる事への感じ方も変わってくる。
欲がなくなるわけではない。
不安もなくならない。
ただ、
「いま自分はこれを失いたくないと思っている」
「もっと欲しいと思っている」
と少し離れて観られるようになる。
それでいいと思う。
今日、命をつなぐ
生命がしていることは、案外単純なのかもしれない。
今日を生きる。
食べる。
眠る。
身体を守る。
そしてまた一日、命をつなぐ。
人間は、その上にたくさんのものを積み重ねてきた。
それも人間らしさなのだと思う。
だから、それを捨てる必要はない。
ただ、ときどき一番下まで戻る。
ゼロとニュートラルを確認し、
「今日は生きられる」
と、それを確かめる。
そして少し余裕があるなら、同じ世界を生きている生命に少し寄り添う。
何かが返ってくるからではない。
そのほうが、自分も穏やかに生きられるから。
生まれる前の世界に還るまで
ゼロから生まれ、しばらくこの世界を生き、そして生まれる前の世界に還る。
その途中で、何がそばにあるかは人それぞれ違う。
たくさん持つ人もいる。
あまり持たない人もいる。
けれど最後には、また同じところへ還る。
だから、持っている量だけで今日の幸せを決めなくてもいい。
今日を生きるものがある。
心が動けば、そのまま観る。
余裕があれば、少し寄り添う。
そして一日が終われば眠る。
そうやって、日々を穏やかに生きる。
今は、それくらいで十分なのだと思っている。
私の終わりと、続く世界。
ただ始まる前に還るだけ…。
